2021.10.29
繰延資産は本来の性質とは異なる会計区分に分類される勘定科目です。処理方法が独特で税務上の規定もあるため、取り扱いには注意が必要です。
繰延資産は、発生すると何年にもわたり処理するものです。日々の経費処理と違い発生頻度は低いですが、法律によって扱いが異なるなど複雑な点があるため、しっかり確認しておきましょう。
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目次
繰延資産とは、発生年度内でなく、複数の期にまたがって償却処理が可能な特定の費用を指します。開業費や資金調達に要した費用、技術開発に要した費用など、費用対効果が長期にわたり期待できるものが対象です。
便宜上いったん資産として計上し、複数の期にわたり少しずつ費用とすることで、特定の期のみに費用負担が偏るのを抑え、適正な収益の算定を図ります。
繰延資産は貸借対照表の「資産の部」に計上されますが、流動資産や固定資産とは異なり具体的な財産価値を持たないため、「擬制資産」と呼ばれます。売却や現金化もできません。
繰延資産は法律によって許容される処理方法が違います。具体的には会社法上と税法上で繰延資産の扱いが若干異なるほか、会社法上の繰延資産は税法上の繰延資産に含まれるという特徴があります。
会社法(企業会計)における繰延資産とは、企業会計基準で規定されている5つの費用(前項で「主な繰延資産の一覧」として示した創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費)です。
償却期間については期ごとの均等償却か任意償却が選択でき、均等償却を行う場合は費目ごとに5年または3年の償却期間が規定されています。
任意償却を行う場合は、償却期間が特に定められていません。任意のタイミングで、支出した範囲内の金額を自由に計上することができるため、利益が出ている時期に経費計上することで節税効果が見込まれます。
ただし、会計における保守主義の原則や、法令・会計基準により、実務上は早期の償却が求められますので、あまりにも長期に及ぶ償却は避けるようにしましょう。
償却限度額は帳簿上の残存価額となり、均等償却の場合は期ごとに均等割した金額、任意償却の場合は期ごとの上限額設定はありません。
なお、効果が期待できなくなった繰延資産は、未償却残高を一時償却しなくてはなりません。
ここで、会社法で規定されている5つの繰延資産について詳しく説明します。
内訳:定款や諸規則の作成費用、設立登記の登録免許税、設立時の事業所賃借料、株式発行にかかる費用など
創立費とは、会社設立にかかった費用のことです。設立後の費用については後述の開業費がそれに当たるため、混同しないようにしましょう。
創立費は会社の設立から解散まで、企業が存続する限りその効果があると考えられますが、擬制資産が財務諸表に計上され続けるのは財務の健全性や保守主義の原則からして不適切です。そのため、会社法や会計基準上で5年の償却期間が設けられています。
内訳:土地・建物の賃借料、保険料、広告宣伝費、従業員の給与、消耗品費、通信・水道光熱費など
開業費は会社設立(登記)後、営業を開始するまでに発生した各種費用のことです。創立費と同様に費用対効果は企業存続の全期間に及びますが、これまた創立費と同様の観点から5年の償却期間が設けられています。
内訳:目論見書・株券等の印刷代、変更登記の登録免許税、証券会社や金融機関に支払う手数料、株式募集の広告費用など
株式交付費とは、株式会社による新株発行、もしくは自己株式の処分にかかった費用を指します。新株発行で得た資金は収益獲得のために使用されます。株式発行に際し、具体的な目的があることもあれば、一般的な事業規模の拡大を名目にすることもあります。いずれにせよ、ケースバイケースとなりますが、実務上は償却期間を3年以内に定めて会計処理を行います。
内訳:目論見書・社債券等の印刷代、社債登記の登録免許税、証券会社や金融機関に支払う手数料、株式募集の広告費用など
社債発行費とは、社債を発行するために直接支払った費用一般をいいます。社債は普通、年単位で発行され、なかには数十年以上の長期債もあります。本来、社債発行費は償還までの期間償却がふさわしいのですが、換金不能な擬制資産が長期にわたり財務諸表に記載され続けるのは、財務上好ましいとは言えません。そのため、実務上は3年間をめどに償却します。
償却処理の仕方には2つの方法があり、社債に準じて複利で計算する利息法と、簡便な定額法が広く認められています。
内訳:新しい技術もしくは経営組織の採用、資源開発、市場開拓費用、生産能率の向上または生産計画の変更等による、設備の大規模な配置替えに要した費用など
繰延資産になる開発費とは、新技術の採用や新市場開拓などにかかった費用をいいます。臨時に発生する費用のことを指し、毎年定期的に支出されるものは繰延資産とはしません。
開発費と似た科目に「研究開発費」がありますが、具体的な成果につながる保証がないため繰延資産から外され、現在は一般管理費として処理されます。開発費の償却期間は5年以内とされています。
税法上の繰延資産は、会計上の繰延資産に加えて、さらにいくつか定義が定められています。法人税法では、「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるもの」とされ、会計上の5つの繰延資産に加えて以下の費用を認定しています。
上記の1~5は具体的には以下のような費用を指します。
1は自社が所属する団体・組織(商店街や組合等)が設置するものに対する負担金等で、商店街のアーケードや街灯設置などの費用の共同支出が該当します。
2は不動産の礼金や更新料(敷金・保証金は除く)などや、信用保証協会への信用保証料になります。
3の役務提供の権利金とは、フランチャイズの加盟金やノウハウの使用料が該当します。
4で代表的なものは店頭看板やネオンサイン、ショーケース、広告用自動車などです。
5は同業組合の入会金(他人に譲渡可能な地位にかかる負担金は除く)や、プロスポーツ選手との契約金、スキー場のゲレンデ整備費用、出版権や著作物の権利使用にかかる支払い費用がそれに当たります。
詳しくは、国税庁のホームページ『第1節 繰延資産の意義及び範囲等』をご覧ください。
また、税法における繰延資産の償却期間は種類別に定められており、1以外はおおむね5年以内とされています。また、償却方法は期間内の均等割になります。
詳しくは、国税庁のホームページ『第2節 繰延資産の償却期間』でご確認ください。
繰延資産は多年度にわたる効果が認められる臨時・一時的な「費用」のことで、会社法(企業会計)や税法上で資産として処理できる特殊な科目です。繰延資産は多大な費用発生による期間利益のゆがみを防ぐために設けられており、さらに財務規律の面から償却期間が定められています。繰延資産勘定を利用することで、事業運営をスムーズに進められるようになります。
繰延資産の発生頻度は高くはないものの、決算処理に携わる可能性があるなら覚えておくとよいでしょう。
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